<女郎花>



「先を急ぐ身なので、通して頂きたいのですが?」


気づかれないように溜息を吐き、
行く手を遮る三人の男に視線をやる。
下卑た笑みを揃いも揃って浮かべる男らに、
内心殺してでも通ってやろうかと
苛立ちを募らせる女性。
それもその筈、今目前にいる男ら以外にも
散々声を掛けられた結果の苛立ちなのだから。
しかし、男らが見つめるこの女性は。



――――女性ではない。



普段は迷彩服に身を包み、
飄々とした雰囲気を出している
武田の忍、猿飛佐助なのだから。
彼が女装をしているのには
勿論理由あってのことだった。
理由とは当然任務であって、
それ以外で好き好んで女装など
しないのはわかっている。



「(尻尾巻いて逃げてくれないかなぁ……って今は無理か。)」
「付き合ってよ!お嬢さ―――。」
「Hey!探したぜ。my honey♪」
「っ……え?;」


一応任務は終わっている事だし、
この際面倒だから変装を解いてしまおうかと
考えていた佐助の背後から声が発せられた。
佐助はまさかと振り返れば、そのまさかで。


「(まさか、バレてる?!俺様、変装完璧なんだけど?;)」
「だ……伊達政宗?!;」
「oh!俺の名を知ってるって事で、生かしちゃおけねぇか♪」
「ひぃぃ!!逃げろぉ!!!」
「coolじゃないねぇ。大丈夫か?」
「あ……有難う……;」
「怖かったんだな。Don't worry!」
「えと……;(バレて、ないっぽいね。)」


ほっと色々な意味で胸を撫で下ろし、
佐助はまだ女の振りをしていることにした。


「俺が送っていってやるよ。女一人じゃ危ねぇからな。」
「い……いぇ。お気づかないなく。」
「遠慮はいらねぇ。」
「っちょ……!?;」


佐助は政宗に馬に乗せられ、その後ろに政宗が座った。
これでは完璧に身動きが取れない。
佐助は渋々行き先を教え、馬が進み始めた。


「お馬さん、重いって言うんじゃ」
「…………。」
「あの……;」
「HaHa!!いや、悪ぃ。面白いこと言うもんだからよ」
「何か、言いました?;」
「知り合いに、あんたと同じように馬をお馬さんって言う奴がいてな!」
「(俺様………って面白がってたの?!)」
「つい思い出しちまってな。そいつが頭から離れることはねぇ。」
「そ……ぅです…か//(今、なんか凄いこと聞いた気が……)///」
「しかし、アンタ武田のなんなんだ?女中か?」
「えぇ……まぁ;」


佐助は顔を見られないように俯いた。
暫く熱を冷ましていると、佐助は
ある事に気づいた。
政宗が最初の会話以来、異国語を話していない気がする。


「あの……最初に使われていたお言葉は?」
「あぁ。わからねぇだろ?困らせたくねぇんでな。」
「お気遣いすみません。」


普段は、追いかけてきて異国語を使い
一方的に愛を語ってくる政宗だが、
意外な所で優しさを見つけてしまい、
佐助は何となく、今度から避けるのは
少し緩めてみようかと考えてみた。






――――……一刻後。


「奥州筆頭が、人攫いか?」
「Ha!そういうアンタは徘徊鬼でもなったか?」
「(あれ、元親の旦那。こんな所で何やってんだろ?)」
「そんなことより、佐助は見つかったのかよ?」
「教える義理はねぇ。」
「そうかよぉ。じゃあ俺も教えねぇ。………」
「!?………(まさか、元親の旦那。俺様を待っててくれてるとか?)」


政宗らがいるのは武田の領内。
城の周りを囲む森の中だ。
元親の様子から結構な時間ここに
いた事が見てわかる。
佐助は自分を見つめる元親に気づいた。


「伊達、信玄公が探してたぞ。早くいきな。」
「hum……。」
「早く行った方がいいんじゃねぇ。俺がそいつ連れてってやっから。」
「…………。」


政宗は渋々といった顔で佐助を下ろし、
馬を走らせ森の奥へと消えた。
元親が近づいてきて手を掴まれると


「行くぞ!」
「あ、はい」


少しぶっきらぼうにそう告げられ歩き始めた。
口調はそんなだったが、歩調をしっかりと
佐助に合わせている。


「さっきの野郎に何かされなかったか?」
「いえ、何も。」
「ほんとか?口では言えないような事とかされてねぇ?」
「大丈夫です。何かしそうな顔ですが……っ!」


つい口に出してしまい、佐助は口を塞いだ。
元親との会話ではいつも政宗の悪口を
言ってしまうので癖が出たのだ。
バレたかと元親を見るが、彼は笑っていた。


「だっはっはぁ!!そうだろうよ!」
「あ……あはは;」
「しっかし、佐助と同じような事言うなぁ!」
「っ……佐助、さん?;」
「あいつも言うからなぁ。………顔も、そっくりだしな♪」
「…………長曾我部……様?;」
「もうすぐ着くからな。」


ニヤリと不敵な笑みを浮かべた元親だが、
その表情からは真実を知っているのか否か、
答えを知ることはできそうになかった。
暫く歩き続け、佐助も任務に出て以来
久々に見慣れていた景色になってきた。
急に元親が足を止め、佐助も止まる。
城にかなり近いというのに、
一見して野盗の類だと佐助はすぐ見抜いた。
耳を澄ませばまだ約8人ほどの足音が聞こえる。
元親は碇槍を片手に佐助を背に押し隠した。
やはり元親も気づいていないよう……。


「その娘を渡してもらおうか!!」
「あぁ?こいつぁ武田のもんだ。お前らに関係してるとは思えねぇが?」
「四国の野郎が黙ってろ!!武田の肩持ちやがって!」
「誤解すんなよ。肩は持ってねぇ。ちと野暮用で大人しくしてるだけだ。」
「……長曾我部様。」
「下がってな。危ねぇから……お前さんには傷一つつけねぇよ。」


行く手を塞ぐように元親を囲む五人の男。
その他四方から来る残りの足音が近づく。
目前では元親が男らの相手をしている。
佐助はクナイを隠し持ち、辺りを警戒した。
今の服装、下駄に女物の着物だと
普段の俊敏な動きは制限され、
反応も鈍くなるのは明白だ。


「十飛ッッ!!!」
「ぐはぁっッ!!?」
「チッ……まだ仲間がいやがったか……;。」
「っ……(馬が来る……?)元ち――」
「っしま……!?;」


不意を突かれ佐助の背後に男が二人現れた。
元親は碇槍で男を薙ぎ払うと佐助へ走る。
佐助は舌打ちし、男に腕を掴まれる前に
クナイで着物を切り裂いた。
切り裂いたのは足の辺りで。
裂け目から佐助の足が流れるように現れた。
馬を走らせる音が近づき、佐助は腕を取られ
俯いていた顔をゆっくりと上げる。


「佐助ぇッッ!!」
「真田?!」


二頭の馬と共に現れたのは、
幸村と政宗だった。
元親は驚き声を上げる。
気絶した男を放り投げ、
政宗と幸村は各自武器を構える。


「何だぃお嬢さん。着物斬っちまって、誘ってんのか♪」
「………んな訳あるかっ!!」


佐助は男に肘鉄を食らわし、
距離を取るともう一人の男に
振り返り様蹴りを腹部に食らわせた。
蹲る二人の男を踏み台にし、
佐助は宙に舞うと勢いよく下駄を
ぶつけ、別の二人を気絶させた。
残りはクナイで宙から仕留め、
羽織を足の下に投げその上に着地を決めた。


「ふぅ………;。」


佐助は息を吐き、鬘を取り袋にしまい込んだ。
髪をかき上げちらりと視線を三人に向ける。
最初に動いたのは幸村だった。
幸村は佐助に走りより、想像しなかったことをされた。


「ちょっと……旦…那?;。」
「………佐助。」
「どうしたのさ?約束通り今日帰ってきたよ?」
「………無事でよかった。俺は心配で……」
「旦那………//」


真剣な表情で抱きついてくる幸村に、
佐助は頬を染め見つめた。
いい雰囲気になりつつある二人を引き裂くように―――。


「Ha!やっぱhoneyだったか♪」
「だよなぁ!」
「………何、二人共気づいてたの結局;?」
「見間違えるわけがねぇよ!」
「俺のLOVEは本物だぜ♪my honey!!Ya-Ha☆」
「はぁ……さいですか//」
「what?今日は逃げないでくれるのか?honey。」
「逃げて欲しいの?伊達の旦那//」
「No!!honey、やっと俺のLoveに応えてくれる気に――」
「湧いてんのか?!誰がてめぇに――」
「はい、旦那。泣かないで?お団子買ってきたからさ?帰って一緒に食べましょ?ね?」
「うむ♪佐助と食す団子は格別だからな!」
「「抜け駆けすんな!!!」」
「………伊達の旦那、元親の旦那も。……ありがとね?」
「「ッッ!!?///」」


にこりと笑みを見せ、佐助は幸村に馬に乗せられ
「お馬さんただいま!」と鬣を撫でていた。
二人は放心状態で佐助を見つめていたが、
暫くして佐助が幸村と共に先に帰った事に
気づき慌てて城へとかけて行った。




総受けですね。 あ、戦闘?シーンかなり下手なんですみません。 というより書いたの初めてで;(汗 流石というか皆佐助の女装見抜きました。 そして後ほど幸村は「破廉恥」と叫び 佐助に抱きついたことに気づきます。(笑



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