<CaptivAte〜浄化〜>



護るためには、汚れよう。
穢さぬためには、穢れよう。


大切なものを護るためには。

己が姿が汚れようとも、厭わない。



己が壊れようとも・・・命を落とそうとも。




お前がいるなら、それでいいんだ。




――――CaptivAte〜浄化〜


『何かを成す為に、生を保つ為には、必ず犠牲が付き纏うと、ワタシは思う』


迫り寄るのは、鋭い爪と研ぎ澄まされた、牙。
メルヘン王国の人狼の集落多い森一帯は、狂気とかしていた。
毎日生きるために繰り返される、死の時間(クロノス)。
人狼の里は、純血を啜った赤い満月を浮かべ
地に這い蹲る狼たちを嘲笑うかの如く、
日を跨いでも、太陽を見せない。


「ったく、気分悪いぜ……。」
「アッシュも具合が悪くなる一方だし。」
「あの吸血鬼らも此処にはこれねえし、外部の救援は望めねえな。」


白い狼と赤い狼が、外を警戒しつつ唸る。
人狼の里から離れた森の中に住んでいたことが
幸いして、まだ被害を受けてはいない。
しかし、赤い月は嘲笑い人狼を森に閉じ込めた。
MZDすらも対処できないこの事態。


まさに、狂気。


そして、その狂気による狂喜が生まれて、連鎖していた。


「シュリ兄・・さん……」
「アッシュ!馬鹿、寝てろよ。」
「でも……、」
「兄貴、寝っぱなしも体に悪いだろ。」
「………あぁ。そう、だな。」


苦笑し台所に向かうアッシュに、カーシュはあることに気づき
引きとめようとしたが、時は遅かった。


「………材料が、ないッスねぇ」
「……だなぁ。」
「…ひょっとして、オレに全部……。」
「………んなことねぇよ、体脂肪率ありすぎだからな。俺様!」
「嘘ッス……シュリ兄、嘘……珍しく下手ッスね。」
「………馬鹿野郎が。」
「馬鹿は……馬鹿は兄貴達ッスよ!!!」


今まで、カーシュやシュリに怒鳴ったことなどなかったアッシュが、
悲痛な顔で二人を見据えた。その目には怒りは含まれてはいない。
ただ、自分のせいだと自身を責めるアッシュの姿。


「オレなんかに……オレ……なんか……」
「アッシュ、俺達は兄弟だ。当たり前だろ?」
「弱い奴は捨ててかなきゃ!!焔緋の日は乗り切れないんスよ!!」
「………捨てられる訳がないだろう……俺には無理だね」


母の違いなど、関係なかった。
過去の鮮明な白の中に浮かぶ、


赤眼のほうが、綺麗で………。


―――――怖かった。


小さく、細い身体を抱きかかえ。
家に連れ帰った記憶。
シュリの記憶には、ただ赤と白の混ざった
混沌とした、言いようのない世界が広がる。
本来ならば、弟であろうと。


焔緋の日には逆らえずに、殺しているのだが。


この愛しい混沌(弟)がいたから。


「俺は餓死なんて惨い死方はしねえ。」
「当たり前だろ。シュリ兄貴がんな死方なんて想像できねえ。」
「食料なら、この森にあるだろ。」
「兄さん………。」
「何も、心配いらねえ……」


たとえこの血の日に喰い殺されようとも。


こいつらだけは、護ってみせる。



そう、思っていたんだ。


だが、俺には……『誓い』は護れない。




なんて、惨い事なのだろうか。



暴言の中に隠された、純粋。



銃弾の中に込められた、想。



二つの願いは、ただ一つ。



けれど願いは、叶わない。



すべては、緋色の呪縛解放。



切に願う、切に願う。



二つの銃口を、互いに向けて。



赤を護ろうと、思います。




願うから、祈るから、だから………。




どうか、幸がありますように。




ただ――――・・・・。











―――――ただ、愛し、君へ。



――――CaptivAte〜浄化〜・・・・。


さあ、肉親の純血を浴びて。



………忌まわしき赤を、終らせよう。



最後に響いた言ノ葉は。



ただ、愛し、兄達へ。






CaptivAteシリーズ、第一段。『浄化』です。 ええ、題名はいわずと知れたあの方の歌(w 犬兄弟がおくる切ないお話でした。 これの続きは、日記で書こうと思います。



inserted by FC2 system