<彼方>



彼は話してくれました。
オレに生きるということは
如何に難しく、如何に理解し難く。

そして


如何に、素晴らしいことなのかと。


彼は教えてくれました。
命の重みというものを。
儚さ、脆さ、弱さ。

そして繋がり。

輪廻転生を。


彼らは幸せでした。
とても、幸せそうに。

笑っていたのです。







けれども、彼らは、





引き裂かれました。





何故?






そんなのは、決まりきったこと。



命には、限りがある。
遅いか、早いか。

それだけだ。


彼は、目を閉じたまま動かない。
彼は、目を閉じてそのまま。
彼は、目を閉じたまま、闇の中へ。
彼は、目を開けて手をのばす。




隣にいたはずの、彼が・・・・





いない。
















彼は、闇の中ではなく。




灰となり、白い塊を壷に残して。
この世を去っていたのです。





「・・・Ash?」



目を覚ますのが、遅すぎたのか?





彼の周りにつもった、時を語る灰はそれほど
多くはない。



ならば、何故・・・・・。







「Yuli」
「・・smile?」



彼には、見ていられなかったのです。



何時目を覚ますのかと、
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日。





彼の分の料理を作り、
語りかけて、
部屋を掃除して、



時折、眠る彼の唇に、
その柔らかな唇を重ねている。



寂しそうな眼の、狼の彼を。




見ては、いられなかったのです。




奪えないことは、わかっていました。
奪ってはならないことも、また。


けれど、彼は、奪いました。



命という、一つだけのものを。




彼は、絶望の淵にいました。
そして、彼も、名前に似つかない表情で。





ただ、ただ。








ぽつりと置かれた壷を、
















水滴二粒、見ていたのでした。




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