<宝>



悔やんでも、悔やんでも。

何度悔やんだところで、

何も変わりはしない。


只重くなって、潰されて。
壊れるだけ。


「ごめん…」


何度聞いただろうか、
たった平三文字の、重い言葉を。


「顔あげろよ」


笑えと何度言っても、笑わない。


「頼む、悔やむな。あれは事故だ。」
「…会いに来た、おれのせいだよ。」
「佐助……」


佐助は元親の無機質な左足に手を添えて表情を曇らせた。
暖かさがなく、木に触れる感触しかない。
元親は左足をなくしたのだ。
今は義足をつけ、少々不便だが生活は難なくこなしていた。
原因は、簡単なことで。



密かな逢瀬の現場に、ただ偶然。
整備していた砲のひとつが暴発し、風や砲の角度が悪く、
佐助に向かい飛んだのを、元親が気付きかばったのが、


足をなくした原因だった。


誰も悪くなく、ただの、事故だったのだ。
今まで目前で飛ぶ血しぶきに恐怖を感じることはなかった。
ただ、悲しくはあった。
恐怖を感じないように鍛練を重ねたからだ。

しかし、目前のその人は、愛しさを教えてくれた人だったから。


病んで病んで。


「誰も、悪くねぇよ。な?」
「………」
「俺の命はここにある。それから」


佐助の手をとり、胸に当てる。空いた手で抱き寄せて、
自分のことで病んでしまった恋人に、
こんな形ですら、愛しさを感じながら、抱きよせて。


「俺の一生の宝を、守れた。」
「………。」
「どうすれば、お前の心は救い出せる?」
「………ちか…ちゃ」
「あぁ。何だ?」
「………ッ。」
「宝が1つだけ足りねぇんだ。な、鍵は…何だ?」


佐助は震えながら顔をあげて、元親の耳元でか細く呟いた。


「まだ……側にいても、いいの?」
「!……まだ?」


元親はきつく腕にしまいこみ、苦笑を浮かべた。


「ずっとだ。手放さねぇから」
「あ…りがとぅ……」



病んだ心を癒し始めた佐助に、
元親はただ、微笑む。
まだ、悲しいだろうから。
けれど必ず、いつか。





――――――また暖かい笑顔を。






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